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暫くその場に立っていた。
部屋に微かに苦しげで泣きそうな吐息。
ああ、こいつは感情を正確に表現できないんだった。
狭い世界で過ごしているから無くなる事には敏感だ。
ラウドの世界の中心は自分なのだ。
「気がつかないとでも思ったか?」
ぎゅっと力を入れてつぶった目じりににじんだ涙を拭いてやった。
と、突然拒むように腕を突き出してきた。
しかし、それほど衝撃はない。
ラウド本人も何をしたのかわからず混乱しているようで、目を見開いて固まっている。
ただ、無意識なのか自分の服をしっかりと握り締めて離さない。
寂しくて、居なくなるのが怖くて。
そんな声がしたような気がする。
気がつけば肩を掴んで、押し倒していた。
必然的に見下ろす形になる。
「俺はお前の傍から離れないし、お前を置いていかない」
だから心配するな。と、頭を抱きかかえるようにして撫でながら言った。
ゆっくりと服を掴んでいた手の力が抜けていく。
「…ほんと、に?」
泣きそうなかすれた声で問いかけてくる。
「ああ、最期まで傍に居る」
落ち着くまで暫く肩や背中を撫でていた。
かなり長い時間そうしていたような気がする。
いつの間にか、腰に腕をまわされて離さないように抱きつかれていた。
その手を、体温を妙に意識する。
気づかれないように押さえてはいるが、正直耐えられる自信は無かった。
かといって、状態からして離れる事はできない。
考えているうちに、満ち潮のように静かに熱が上がってくる。
どうしたら…
「リュート?」
心臓が跳ねる。
衝動が脳天から足先まで走りぬける。
口元まで出かかった本能からの言葉を飲み込み、辛うじて「見るな」と伝える。
見られたくない、こんな姿を…こいつだけには…
投稿者 ryifb4 | 返信 (0) | トラックバック (0)