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823.7

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とんっと軽く屋根を蹴って飛び降りる。

下りる間にスカート裾の金具をいくつか外し、ワイヤーの束を一つ取り出す。

裏口の目の前に飛び降りると、引き戸のちょうつがいを外しにかかる。

まだ薄い金属の加工までできないのか、厚手の丈夫な皮製だった。


「やっぱアナログも大事よね~」


急ぎなのだが、このクラスの文明には感心させられることが多い。

単純構造なのと、天然素材特有の弱点をついてすぐに開けてしまう。


進入すると思ったより暗い。

少し体勢を屈めるだけで影に隠れてしまう。

そーっと廊下を伺うと、多少明るいだけだった。


「さて、下調べだともうちょっと奥に地下室の入り口があるみたいね」


ステルスをかけてから廊下に出て行く。

目的の部屋までは余裕で入れる。

問題はここからだ、地下室の扉の位置を探すのがめんどくさい。

ところが思案は爆発音に打ち切られる。


「なにやってんのーーーーーーーーーー!!!!」


思わず大声を出してしまう。

地下室の入り口を見つけたら合図をして、上で注意をそらす予定だったのだ。

それにこちらに向かってくる足音がする。


「もー!!」


仕方がなく天井にワイヤーを投げつけ足場を作り、飛び乗る。

そのまま息を潜め様子を伺う。

まもなく、一人が駆け込んできて床の一部を叩いた。


「敵襲だ、全員出せ!!」


すると、床の一部が持ち上がりぞろぞろと私兵が出てきた。


「…ラッキーv」


最後の一人が出た後、すぐ閉まったのでかなり用心深い。

何か合言葉とかあるのだろう。

しかし、入れるチャンスはすぐに来た。


また一人、駆け込んできたのだ。

何か物を探している気配で、そちらこちらの木箱を探している。

見つからないと判ると、地下室の扉を叩いた。


「捕縛用の網はあるか」

「あるが、どうした?」


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1003

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 冗談じゃないというのはまさにこの事か。



 警備の場所柄、娼館の主たちとは顔見知り。

 そのため、よーく上出来のコを教えてもらっていた。

 ひいきの旦那にいたっては「ちいーっと練習台になってくれ」と裏で新人の相手をさせてもらったりしたわけで。


「まさかアルにその気があるとは」

「むぐっ…言っとくけど俺はリュートとしか相手してないからな!」


 非常に痛い弱みをエルに知られてしまったのが痛恨の一撃。

 この腹黒は事あるごとにちらつかせるのでうかうかしてられない。


「まったく、世話焼きが」

「うるせー、仕事で紹介してやったんだ仕事で」


 出会いは数年前の夜間警備の際だった。

 娼館街の夜間警備はかなり厳しい。

 トラブルの多い場所柄というのもあるが、モグリの取り締まりも兼ねている。

 リュートもそんなモグリだった。


「俺ら軍の制服見たら、普通のモグリは逃げるんだよな」


 しかし、リュートは逃げもせず逆に近寄って、誘ってきたのだ。

 周りから見ても、明らかに警備中の軍人に向かって。


「大胆というより…世間知らずだなアレは」

「軍を知らないぐらい世間知らずか?」

「そ。そこいらの箱入り娘よりひどかったぜ」


 自分達が軍だと言っても、どこ吹く風。

 ムキになって、その場で小一時間イチから教えてやったというか…説教してやったというか。

 そんでもって、その場の勢いで旦那に紹介した経緯がある。


「まったく…お人好しが」

「で、後日旦那から感想が来てな」


 洒落にならん、と一言。


「どこかで飼われていたのが逃げ出すか売りに出ないと、こんなヤツは出てこないんだと」

「裏の話か」

「まあな。でも売られてきた気配もないし、逃げてきたならそもそも娼館街に寄りつかねぇな」


 よく店から逃げたとかで借り出されるが、大概教会に逃げるか男連れで逃げるかどちらかだ。

 旦那もプロなので、そこらへんは俺より詳しい。

 そのプロがうなっていた。

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979.6

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かなり長い時間、橋のそばで待っていた。


「遅いな」

「うん…」


何回か同じやりとりを繰り返す。

その度に不安が少しずつ増えていく。

早く、戻って来て欲しい。



どのくらい待っていただろう。

消えるようなかすかな歌が聞こえてきた。


程なく、重い足取りでリュートが現れた。

返り血で前が汚れている。


ただ、様子がおかしい。


「リュート?」


声を掛けると重い動作で顔を上げた。

半分を血で真っ赤にして、向けてきた目は虚ろだった。


「…ぁ」


かすかに唇が何かつぶやいた。

それに気を取られ、リュートが崩れる瞬間を見逃す。

嫌な感じの鼓動。

慌てて駆け寄り、倒れる寸前に何とか抱きとめた。


「リュート!!」

「おい、何やらかした!」


二人で声をかけても、ぶつぶつと何かを呟き、震えている。


「…戻るぞ、どっちにしても見られるのはまずい」


フェイトが軽々と抱き上げたリュートを受けとる。

そのまま、人目をさけて小路を縫うように宿へ戻った。

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829

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窓が突風でびりびりと震える。


あの二人は普段から得体の知れない存在だ。

まさかラウドを起こして、50人強もの手練の相手をたった3人で捌くなど正気の沙汰か。

それよりも強制的に起こされたラウドの体力が気になる。

10分以上の戦闘は考えていない。

だから長期戦は自分がコントロールしないと持たないのだ


「早くしないと…っ」


廊下の角を曲がればすぐだというのに、運悪く玄関先に私兵数人と術士一人がいた。


「なっ、どうやって拘束を解いた?!」


声に聞き覚えがある、薬を使った術士だ。


「悪いな、こっちの支援者はお前たちよりも有能でな!」


二人同時に同じ構えで術を作り出しはじめる。

もしかしたらこいつは「換え」の術士か?


その術は窓の破壊音で中断してしまう。

続いて聞こえた扉の破壊音。


「うわっ」


飛び込んできた白い影に、一瞬で私兵がなぎ倒される。

重装備の鎧を装備していたのにもかかわらず、子供のように軽くあしらわれた。


「なに…?」


術士が驚きの表情のまま固まっている。

いつの間にか、わき腹を深々と一閃されていた。

飛び込んできたのは一人ではなかったのだ。

見知った影に思わず駆け寄る。


「あれほど勝手に出るなと言っただろ!!!」


感情のまま叱ったはずだが、行動は裏腹に抱きついてしまっていた。


「うん、ごめんなさい…でも」

「言い訳は後で聞く、無茶するな…!」


「っが…それが術か」


術士はわき腹から出血があるものの急所が外れていたようだ。

傷口を押さえ、呻いている。


「知った所で何ができる?」


continue ...

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639.2

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声がした直後、いきなり腕がぐっと頭の上まで持ち上がる。

首だけ扉の方を向けると、息せき切ったユイがいた。


「あーもーびっくりした」


もやもやした気分がおさまらない。

その上腕に何か細い糸が絡まっているが、引っ張っても切れる気配がない。


「これはお前の仕業か」

「条件反射でつい…切れないからあまり暴れないでもらうと嬉しい」


余計なことを。

だが、次の一言でうかつだった事に気がつく。


「すーちゃんに見られたらどうするのよ」

「…しまった」

「判ったならよろしい」


気付くと同時にするりと絡んでいた糸が外れる。

多少、吊られた時についた赤い線のような跡が残ったが、目立つような跡ではない。


「それだけじゃないわ…もっと別な方法があるでしょ」

「俺のやり方に口出しするな」


このおせっかいは…

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799.3

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笑ってごまかされたけど、あれは重症だと勘が訴える。


「さて、何か薬はあると思う?」

「…そればっかりは無い、かな」


フェイトとミーティング中に夕食時の話をしてみた。


「あいつら人間関係弱いから、何かきっかけ無いとな」


同じく薄い部類のフェイトも気にしているようだ。

それだけあの二人は人間関係が薄く、世界が狭い。

ラウドにいたっては、フェイト曰く「3~4人しか認識してないようだ」とのこと。

毎日お邪魔してるから信憑性もそこそこある。


「ラウドのやつも目に見えて落ち込んでるし、参ったな」

「私たちが悩んでも、本人たちが何とかしないとねぇ」

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805

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少し、試してみたいことがあった。




一つは、教えてもらった体術がどこまで通用するのか。

もう一つは…


「いらない、なくても大丈夫」


リュートの術を拒むこと。

どうしても、自分でどこまでやれるか試したかった。



逃げ出した最後の一人を追いかける。

しばらく走って、追いついたところで致命傷を与えた。

教えてもらったとおりに、勢いを殺さずにそのままぶつかって行く感じで。


手ごたえは…深い。

今までに無い深い感触。

少し角度を変えただけなのに、うっかりしたら骨に突き刺さって抜けなくなりそうだ。


そして、生々しい感覚が手に残る。

今まではずーっとリュートの術にかかっててよくわからなかった。

やっと、自分がやっていることを理解できた。

フェイトが漏らした「価値観なんて、人様々だ」ということもなんとなくわかった。

いろいろぐるぐると考えてみるけど、やっぱり行き着くところは一つだけ。




自分のセカイの中心はリュートしかいないということ。




「終わったか?」


ざり、と聞きなれた足音が止まる。


「うん、終わった」

「そうか…」


不意に頭を撫でられる。

普通ならすぐ何かされて眠くなったりすることがあるけど、今日はそんな気配が全くない。

なんか変だけど、しばらくこのままでも悪くはないと思う。

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1002

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 昔からアルは運がよかった。

 運が良すぎたためトラブルによく合うのだが、それすら運で乗り切るとんでもないやつだ。

 どういうわけか、今回も巻き込まれてただ一人無傷で助かったといっても過言ではないらしい。




「お前、こんなの追っかけていたのか」

「まあな、余りにも範囲が広すぎて人手が足りないんだ」


一応部下は5人ほどいるのだが、各地で聞き込みをさせているので暫く帰ってこない。

 数日に一度情報が届くが、これと言ってめぼしい情報は出てきていない。

 ただ、人相図を送ったのでもう少ししたら重要な情報が入るかもしれない。


「国内全体で1500ちょい…これ本当に一人で出来るもんか?」

「精査しなければならないが、同じ手口が続くと同一犯だと思わざるをえない」

「で、なんで俺が手伝わなきゃいけないんだ?別に誰でもいいだろ」

「これを見たらそんなことも言えないと思うが」


 部下に送ったものと同じ書類をアルに渡す。

 案の定、絶句している。


「聞き込みなんぞは支部に頼めば何とでもなる。別の理由だよ、アル」


 別の理由…一度でも交わしたら口封じとして殺されるため、相手より先に確保しなければならない。

 そして何より、アルしか詳しいことを聞きだせる者がいないのだ。

 

「ぐ…」

「断われるわけがないよな、バレたわけだし」

「リュートの事はともかく…実家には言うなよ」

「それは今後の働き次第だよ」


 なにより、重大な秘密を握ってしまったのが堪えたらしい。

 アルは昔から悪さばかりしていて、よく叱られていたからな。

 叔父さんは怒ると怖いから、いい薬だ。

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530.1

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どれほど悩んだことか。

いい加減覚悟を決めなければならない。


自分の最期を見据えること。


術の完成には、一番最後に自分が餌食にならないといけないのは知っている。


やるからには確実に。







まるまる一つ目的を書き換えたようなものだ。

負担は相当なものだろう…


「いてて、ツメ立てるな」


しがみついてくる力が容赦ない。

呼吸も荒く、うめき声が絶えない。

落ち着くように頭や肩を撫でていても逆効果のようだった。


「りゅ…と、くるし…っ…」


その言葉を言うか言わないうちに、ラウドの力が抜ける。

顔を覗きこむと、焦点の合わない目が閉じられる。


「逃げるな、ラウド」


気を失いかけていたところを無理やり起こす。

ここで書き換えしたものを無に返すのは面倒だ。

それに、気分的に一回で終わらせたかった。


「ゆっくりでいい、受け入れろ」


自分にも言い聞かせるように言う。

これは決められたことだ、後戻りはできない。


「後戻りは出来ない、終わりまで進むしかないんだよ」

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799.2

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夕食を宿で取っていた時だった。

急にクーが立ち上がる。

勢いで椅子がガタンと音をたてて倒れた。


「あれ?」


本人が不思議そうにしているのもおかしな話だ。


「座るのちょっとまった!」


同席していたユイがあわててクーの椅子を直す。

見えないクーには手助けが必要だが、運悪くスフィアにかかりきりだった。

ぐずる子供の扱いは面倒くさい。

こう二人も手間がかかるようだとは思いもよらなかった。


なんとかスフィアの食事を終わらせ、自分の分を食べようとしたときには料理が冷めてしまっていた。


「お兄さん、いろいろ大変ねぇ」

「もう少し素直になってくれればいいんだが…」


ため息がついて出る。

何かをどこかに忘れてきたような感覚がまとわりつく。


「何かお困りのようですね」

「そう見えるのか?」

「肝心なものを見失ったような顔をしてるわよ」

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200.2

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先ほどの戦闘を何度も繰り返して再生する。

そこそこ腕はあるけど、まぁ自分の相手にはまったくならないだろう。


「分析完了、戦闘に支障なし」


今回の長期任務はよりによってエースからだという。

また何か嗅ぎつけてきたのだろう、あの好奇心の塊のような人は…


「ったく、また厄介な仕事持ってきやがって」


救いは、パートナーが月唯だったことだ。

長年手を組んでいる月唯ならば、細かいことに手が回る。


『そっちの様子はどうかしら?』

「丁度隠れ家に戻ったところだ」

『そっか、やっぱりその二人だけ行動が違うわ』

「なるほど…そっちのほうは?」

『宗教施設みたいな場所に入って行った、支援者みたい』


手分けして下調べを進め、そろそろ監視の対象を決めなければ。

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823.4

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最近は赤い色が好きになってきた。

まだ怖い気がするけれど、別の思いが和らげる。



そんな静寂を破る来客。



「落ち着いて聞けよ」


いつもより真剣な顔のフェイトから出た言葉は信じられなかった。

思わず「飛び起きた」ところを押さえつけられる。


「だから落ち着けって!」

「でも!!」


「ほんと起きた…」

「こうもうまくいくとは思わなかったのぅ…」


リュートが捕まったということが信じられない。

でも、近くに気配がまったく無い。


「落ち着け、今から助けに行くから手伝え」

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664.1

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珍しく、宿に戻ってきたのが深夜だった。

それでも、汚れを持ち込まないように清めてから戻る。

窓から忍び込むと、リュートが荷物からうす茶色の液が入ったガラスの小瓶を取り出していた。


「…悪い、今日はもう眠らせてくれ」


ばつが悪そうな顔をして、ふた口ほど小瓶の液体を飲む。

そういえば一日中調子が悪そうな気配だった。


「いい子だから、一人でできるな?」


自分の頭を手荒に撫でて、寝台に突っ伏す。

ほんの少しアルコールの匂いがした。



夜行の服は密着するように作られていて、一人で脱ぐのは大変だ。

紐で締めている場所を一通り緩めないと脱げない。

悪戦苦闘すること暫く、やっとすべての紐を緩めることが出来た。


「ふぅ…」


窮屈な服を脱いで一息つくと、静かな寝息が聞こえる。

リュートが自分より早く寝ることはめったに無い。

興味本位で近づいたときだった。


「ううっ…ぁ」


リュートが急に苦しそうな表情になり、呻く。

一瞬、起きたのかと思ったがそうではなかった。

眠ったままだ。


「う…あ……」


何かをこらえるように頭を抱え、うなされている。

たまらず、起こそうと手を伸ばすと痛いほど強い力で手首を掴まれた。


「リュート?!」

「…師匠……も、…ムリ……ごめ…な、さ……」


はっきりと聞こえた。

背筋が凍る。


「…や、だ……われ……」

「っ、リュート!」


肩を揺さぶってムリヤリ起こす。

「あの場所」の記憶は自分も辛い。




continue ...

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1001

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最近何か忘れていた気がしなくもない。

その「忘れていたモノ」を思い出させたのは…




「何事。朝からエルが来るなんぞ」

「仕事でね、ここでは話し辛いから呼び出そうと思ったんだが」


暗に「寝坊してすっぽかされる」と言われている気がしなくも無い。

だからコイツは嫌いなんだとぼやきたくなる。

従兄弟じゃなければ絶対付き合いたくないがな。


「今追っている事案で、なぜかお前が上がってきていてな」

「断ったらしょっ引くのか」

「当然」


思い当たるフシがまったく無いが、配置先の担当場所がらみか。

そういえば、ひいきの店の旦那も暴漢に襲われたとか言って、腕をつっていた。

未だに犯人が捕まらないのと関係があるのだろう。


「はいはい、解りましたよ」

「それと上に頼んで、暫らくお前を借りることにしたからな」

「ちょっとまてガズエル!!!!!」


いくらなんでも話が出来すぎじゃないかと疑う。

いや、コイツの事だから前々から根回ししまくっている可能性の方が高い。


「喜べ、少し給料上がるぞ」

「うぐぐぐ」


何かうまく丸め込まれた気がする…っ

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133

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ただ、一度でも心に衝撃を与えたかっただけだ。

どういう形でもいい。


「お前、ほんとに抵抗しないのか」

「…っ、ぁがっ」


しかし、首を絞めているのに抵抗しないとは…よっぽど師匠に仕込まれたか。

何かふつふつと沸いてくるものがある。

腕の力を緩めると、相手は苦しそうに肩で息をついた。


「はっ…がはっ……」

「俺の命令は絶対か」

「…ぅっ、術士の命令はっ…!ぐぅ」


驚きに見開かれた目。

なんだ、感情が無いわけではないらしい。


表情が歪むのがおもしろくなり、つい何度も締め上げた。


「……なん…で…」

「気に入らないんだよ」


ほとんど意識が飛んでいる相手は、虚ろに空を見ている。

聞こえているのか解らないが、耳元で囁く。


「ラウド、お前は俺が必要な時にしかいらない」

「…イラナイ……必要な時だけ…」

「そうだ、必要な時だけいればいい」

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823.1

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ふっと眠りから醒めて…意識を失う前に何があったか思い出し飛び起きる。


「んぐっ!!」


ぎりっと皮の軋む音。

冗談じゃない。


「ぐっ!…むうっ!!」


暫く暴れてみても緩む気配すらない。

ご丁寧に主要な関節を固定し、目隠しと猿轡まで噛まされている。

無傷で捕まえる気なのか。

よっぽど注意深く気配を探らないと逃げられないか。


動きを探るため意識を集中して、程なく。

複数の足音が近づいてきた。

足音はすぐ近くまで近づいて止まる。


「こいつが探していた二人の内の、術士か?」

「はっ、間違いありません」

「こいつが…術を二つも葬ったヤツか」


厄介なのに捕まった…

随分前にやりあった同類を裏で支援しているヤツららしい。

最近のひんぱんな襲撃もこの支援者の仕業か。


「ええ、もし同じ計画の行方知れずの術だとしたら一番完成に近い」

「術士がいるのなら、術もこの街のどこかにいる。急いで探せ!」


甘いな。

悪いが、何もなければ隠し通せる自信はある。

ラウドがそう簡単に勝手に出てくるわけが無いし、今は「3人」で旅をしているのだ。

やつらが「二人組」に目が向いている限り見つからない。


問題はやはり…


「術士はどうしましょうか?」

「再調教だ、早朝にその場がある街に移動する」


術を扱う「術士」に替わりはいない。

対になる術士がいれば、術は手足のように扱える。



朝までに何とかしなければ…


「了解しました、では念のため逃げられないよう『香』を焚いておきます」


言い終わらないうちに重い樹脂の匂いがする。

催眠術用の樹脂の匂い。


continue ...

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943.5

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「お、帰ってきたようだの」

「みたいだな」


「ただいま。あーびっくりした」


宿の部屋で留守番をさせていたパンドラが、フェイトと一緒に屋根の上にいる。

やはり連れて行くべきだったかなぁと反省。


「いやーすごかった、大バトルになっちゃって」

「ああ、そういえばかすかに歌が聞こえてきたのぅ」

「あの歌声はリュートだったのか」


歌と踊りの大バトルは一方的な終結になってしまったが、また機会があれば聞けそうだ。

なぜなら…


「んで、お相手がシグさんだったのには驚いた」

「は!?」

「そんでもって、よく見たらブレスさんもいた」

「なんでまたこんなところに…」


フェイトが驚いているのも無理はナイ。


「…放浪癖があるブレスまで捕まるとは…何事じゃ…」


とりあえず同族の事情に詳しいパンドラも驚きを隠せない。

同族でもかなり有名な風来坊らしいブレスさんが見つかった時点で事件のようだ。


「そうそう、シグさんからパンドラに伝言」

「む?」

「言えば解るって言うんだけど、『母体の手がかりが見つかった』だって」

「あい解った。すまないの月唯」

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347.2

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リュートに呼ばれた。




起きようとすると、ひっかかる感じ。


「コラ、ぼーっとするなよ」


見上げたリュートに赤い影のようなものが見えた。

しかし、まばたきすると消えてしまった…気のせい?

自分の手を動かし、何も異常がないことを確かめる。


「いくぞ」


不審に思ったのか声を掛けられた。

その背中を追いかける。



夜は寒い。



人に見つからないように、影を選んで進んでいく。

ただ、誰かに見られている気がずーっと離れない。

それは人けが無い場所に出るまで続いた。


「さて、始めるぞ」


つっと背中に緊張が走る。

いつもなら目の前が真っ白になって、リュートの声しか聞こえない。

嫌いで好きなイヤな一瞬。


いつものように……





メリッという音が耳元で響いた。

一瞬遅れて叫ぶ声。

動けない体をおそるおそる見ると……もう一人の自分が自分と中途半端にくっついて……

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472

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静かで耳が痛くなりそうだ。

外だと虫や風の音がするけれど、建物の中に入ってしまえば聞こえない。


微かな空気の流れと歌の聞こえる方向に向かっていく。

近づくにつれて、乳脂のこげた匂いが広がってきた。


「また食べてる」


案の定、匂いの元は台所からだった。

何か焼けている音がする。

歌も同じ場所からのようだ。

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801.5

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極々弱くしたカンテラの光が目に入る。

窓の外はまだ白みもしていない。


あの後結局、衝動に流されて見られてしまった。

溝は埋まったかもしれないが、あんな姿を見られたのは正直言って…



考えても収まらないので軽く水を被ってくることにする。

起こさないように静かに部屋を出てドアを閉めたときだった。


「夜中はお楽しみでしたね」


心臓にものすごく悪い、とんでもないセリフが飛んできた。

本当に嫌なタイミングで。


「ユイ…いつからそこに居た」

「フェイトが戻ってきてすこしたった後かしら?そこからずーっと」


ということは、まさかとは思うが。

嫌な予感がする。


「………聞いたのか?全部」

「ばっちり☆」

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