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ryifb4

本線

799.3

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笑ってごまかされたけど、あれは重症だと勘が訴える。


「さて、何か薬はあると思う?」

「…そればっかりは無い、かな」


フェイトとミーティング中に夕食時の話をしてみた。


「あいつら人間関係弱いから、何かきっかけ無いとな」


同じく薄い部類のフェイトも気にしているようだ。

それだけあの二人は人間関係が薄く、世界が狭い。

ラウドにいたっては、フェイト曰く「3~4人しか認識してないようだ」とのこと。

毎日お邪魔してるから信憑性もそこそこある。


「ラウドのやつも目に見えて落ち込んでるし、参ったな」

「私たちが悩んでも、本人たちが何とかしないとねぇ」

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805

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少し、試してみたいことがあった。




一つは、教えてもらった体術がどこまで通用するのか。

もう一つは…


「いらない、なくても大丈夫」


リュートの術を拒むこと。

どうしても、自分でどこまでやれるか試したかった。



逃げ出した最後の一人を追いかける。

しばらく走って、追いついたところで致命傷を与えた。

教えてもらったとおりに、勢いを殺さずにそのままぶつかって行く感じで。


手ごたえは…深い。

今までに無い深い感触。

少し角度を変えただけなのに、うっかりしたら骨に突き刺さって抜けなくなりそうだ。


そして、生々しい感覚が手に残る。

今まではずーっとリュートの術にかかっててよくわからなかった。

やっと、自分がやっていることを理解できた。

フェイトが漏らした「価値観なんて、人様々だ」ということもなんとなくわかった。

いろいろぐるぐると考えてみるけど、やっぱり行き着くところは一つだけ。




自分のセカイの中心はリュートしかいないということ。




「終わったか?」


ざり、と聞きなれた足音が止まる。


「うん、終わった」

「そうか…」


不意に頭を撫でられる。

普通ならすぐ何かされて眠くなったりすることがあるけど、今日はそんな気配が全くない。

なんか変だけど、しばらくこのままでも悪くはないと思う。

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530.1

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どれほど悩んだことか。

いい加減覚悟を決めなければならない。


自分の最期を見据えること。


術の完成には、一番最後に自分が餌食にならないといけないのは知っている。


やるからには確実に。







まるまる一つ目的を書き換えたようなものだ。

負担は相当なものだろう…


「いてて、ツメ立てるな」


しがみついてくる力が容赦ない。

呼吸も荒く、うめき声が絶えない。

落ち着くように頭や肩を撫でていても逆効果のようだった。


「りゅ…と、くるし…っ…」


その言葉を言うか言わないうちに、ラウドの力が抜ける。

顔を覗きこむと、焦点の合わない目が閉じられる。


「逃げるな、ラウド」


気を失いかけていたところを無理やり起こす。

ここで書き換えしたものを無に返すのは面倒だ。

それに、気分的に一回で終わらせたかった。


「ゆっくりでいい、受け入れろ」


自分にも言い聞かせるように言う。

これは決められたことだ、後戻りはできない。


「後戻りは出来ない、終わりまで進むしかないんだよ」

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799.2

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夕食を宿で取っていた時だった。

急にクーが立ち上がる。

勢いで椅子がガタンと音をたてて倒れた。


「あれ?」


本人が不思議そうにしているのもおかしな話だ。


「座るのちょっとまった!」


同席していたユイがあわててクーの椅子を直す。

見えないクーには手助けが必要だが、運悪くスフィアにかかりきりだった。

ぐずる子供の扱いは面倒くさい。

こう二人も手間がかかるようだとは思いもよらなかった。


なんとかスフィアの食事を終わらせ、自分の分を食べようとしたときには料理が冷めてしまっていた。


「お兄さん、いろいろ大変ねぇ」

「もう少し素直になってくれればいいんだが…」


ため息がついて出る。

何かをどこかに忘れてきたような感覚がまとわりつく。


「何かお困りのようですね」

「そう見えるのか?」

「肝心なものを見失ったような顔をしてるわよ」

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200.2

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先ほどの戦闘を何度も繰り返して再生する。

そこそこ腕はあるけど、まぁ自分の相手にはまったくならないだろう。


「分析完了、戦闘に支障なし」


今回の長期任務はよりによってエースからだという。

また何か嗅ぎつけてきたのだろう、あの好奇心の塊のような人は…


「ったく、また厄介な仕事持ってきやがって」


救いは、パートナーが月唯だったことだ。

長年手を組んでいる月唯ならば、細かいことに手が回る。


『そっちの様子はどうかしら?』

「丁度隠れ家に戻ったところだ」

『そっか、やっぱりその二人だけ行動が違うわ』

「なるほど…そっちのほうは?」

『宗教施設みたいな場所に入って行った、支援者みたい』


手分けして下調べを進め、そろそろ監視の対象を決めなければ。

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664.1

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珍しく、宿に戻ってきたのが深夜だった。

それでも、汚れを持ち込まないように清めてから戻る。

窓から忍び込むと、リュートが荷物からうす茶色の液が入ったガラスの小瓶を取り出していた。


「…悪い、今日はもう眠らせてくれ」


ばつが悪そうな顔をして、ふた口ほど小瓶の液体を飲む。

そういえば一日中調子が悪そうな気配だった。


「いい子だから、一人でできるな?」


自分の頭を手荒に撫でて、寝台に突っ伏す。

ほんの少しアルコールの匂いがした。



夜行の服は密着するように作られていて、一人で脱ぐのは大変だ。

紐で締めている場所を一通り緩めないと脱げない。

悪戦苦闘すること暫く、やっとすべての紐を緩めることが出来た。


「ふぅ…」


窮屈な服を脱いで一息つくと、静かな寝息が聞こえる。

リュートが自分より早く寝ることはめったに無い。

興味本位で近づいたときだった。


「ううっ…ぁ」


リュートが急に苦しそうな表情になり、呻く。

一瞬、起きたのかと思ったがそうではなかった。

眠ったままだ。


「う…あ……」


何かをこらえるように頭を抱え、うなされている。

たまらず、起こそうと手を伸ばすと痛いほど強い力で手首を掴まれた。


「リュート?!」

「…師匠……も、…ムリ……ごめ…な、さ……」


はっきりと聞こえた。

背筋が凍る。


「…や、だ……われ……」

「っ、リュート!」


肩を揺さぶってムリヤリ起こす。

「あの場所」の記憶は自分も辛い。




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1001

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最近何か忘れていた気がしなくもない。

その「忘れていたモノ」を思い出させたのは…




「何事。朝からエルが来るなんぞ」

「仕事でね、ここでは話し辛いから呼び出そうと思ったんだが」


暗に「寝坊してすっぽかされる」と言われている気がしなくも無い。

だからコイツは嫌いなんだとぼやきたくなる。

従兄弟じゃなければ絶対付き合いたくないがな。


「今追っている事案で、なぜかお前が上がってきていてな」

「断ったらしょっ引くのか」

「当然」


思い当たるフシがまったく無いが、配置先の担当場所がらみか。

そういえば、ひいきの店の旦那も暴漢に襲われたとか言って、腕をつっていた。

未だに犯人が捕まらないのと関係があるのだろう。


「はいはい、解りましたよ」

「それと上に頼んで、暫らくお前を借りることにしたからな」

「ちょっとまてガズエル!!!!!」


いくらなんでも話が出来すぎじゃないかと疑う。

いや、コイツの事だから前々から根回ししまくっている可能性の方が高い。


「喜べ、少し給料上がるぞ」

「うぐぐぐ」


何かうまく丸め込まれた気がする…っ

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133

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ただ、一度でも心に衝撃を与えたかっただけだ。

どういう形でもいい。


「お前、ほんとに抵抗しないのか」

「…っ、ぁがっ」


しかし、首を絞めているのに抵抗しないとは…よっぽど師匠に仕込まれたか。

何かふつふつと沸いてくるものがある。

腕の力を緩めると、相手は苦しそうに肩で息をついた。


「はっ…がはっ……」

「俺の命令は絶対か」

「…ぅっ、術士の命令はっ…!ぐぅ」


驚きに見開かれた目。

なんだ、感情が無いわけではないらしい。


表情が歪むのがおもしろくなり、つい何度も締め上げた。


「……なん…で…」

「気に入らないんだよ」


ほとんど意識が飛んでいる相手は、虚ろに空を見ている。

聞こえているのか解らないが、耳元で囁く。


「ラウド、お前は俺が必要な時にしかいらない」

「…イラナイ……必要な時だけ…」

「そうだ、必要な時だけいればいい」

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823.1

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ふっと眠りから醒めて…意識を失う前に何があったか思い出し飛び起きる。


「んぐっ!!」


ぎりっと皮の軋む音。

冗談じゃない。


「ぐっ!…むうっ!!」


暫く暴れてみても緩む気配すらない。

ご丁寧に主要な関節を固定し、目隠しと猿轡まで噛まされている。

無傷で捕まえる気なのか。

よっぽど注意深く気配を探らないと逃げられないか。


動きを探るため意識を集中して、程なく。

複数の足音が近づいてきた。

足音はすぐ近くまで近づいて止まる。


「こいつが探していた二人の内の、術士か?」

「はっ、間違いありません」

「こいつが…術を二つも葬ったヤツか」


厄介なのに捕まった…

随分前にやりあった同類を裏で支援しているヤツららしい。

最近のひんぱんな襲撃もこの支援者の仕業か。


「ええ、もし同じ計画の行方知れずの術だとしたら一番完成に近い」

「術士がいるのなら、術もこの街のどこかにいる。急いで探せ!」


甘いな。

悪いが、何もなければ隠し通せる自信はある。

ラウドがそう簡単に勝手に出てくるわけが無いし、今は「3人」で旅をしているのだ。

やつらが「二人組」に目が向いている限り見つからない。


問題はやはり…


「術士はどうしましょうか?」

「再調教だ、早朝にその場がある街に移動する」


術を扱う「術士」に替わりはいない。

対になる術士がいれば、術は手足のように扱える。



朝までに何とかしなければ…


「了解しました、では念のため逃げられないよう『香』を焚いておきます」


言い終わらないうちに重い樹脂の匂いがする。

催眠術用の樹脂の匂い。


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943.5

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「お、帰ってきたようだの」

「みたいだな」


「ただいま。あーびっくりした」


宿の部屋で留守番をさせていたパンドラが、フェイトと一緒に屋根の上にいる。

やはり連れて行くべきだったかなぁと反省。


「いやーすごかった、大バトルになっちゃって」

「ああ、そういえばかすかに歌が聞こえてきたのぅ」

「あの歌声はリュートだったのか」


歌と踊りの大バトルは一方的な終結になってしまったが、また機会があれば聞けそうだ。

なぜなら…


「んで、お相手がシグさんだったのには驚いた」

「は!?」

「そんでもって、よく見たらブレスさんもいた」

「なんでまたこんなところに…」


フェイトが驚いているのも無理はナイ。


「…放浪癖があるブレスまで捕まるとは…何事じゃ…」


とりあえず同族の事情に詳しいパンドラも驚きを隠せない。

同族でもかなり有名な風来坊らしいブレスさんが見つかった時点で事件のようだ。


「そうそう、シグさんからパンドラに伝言」

「む?」

「言えば解るって言うんだけど、『母体の手がかりが見つかった』だって」

「あい解った。すまないの月唯」

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347.2

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リュートに呼ばれた。




起きようとすると、ひっかかる感じ。


「コラ、ぼーっとするなよ」


見上げたリュートに赤い影のようなものが見えた。

しかし、まばたきすると消えてしまった…気のせい?

自分の手を動かし、何も異常がないことを確かめる。


「いくぞ」


不審に思ったのか声を掛けられた。

その背中を追いかける。



夜は寒い。



人に見つからないように、影を選んで進んでいく。

ただ、誰かに見られている気がずーっと離れない。

それは人けが無い場所に出るまで続いた。


「さて、始めるぞ」


つっと背中に緊張が走る。

いつもなら目の前が真っ白になって、リュートの声しか聞こえない。

嫌いで好きなイヤな一瞬。


いつものように……





メリッという音が耳元で響いた。

一瞬遅れて叫ぶ声。

動けない体をおそるおそる見ると……もう一人の自分が自分と中途半端にくっついて……

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472

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静かで耳が痛くなりそうだ。

外だと虫や風の音がするけれど、建物の中に入ってしまえば聞こえない。


微かな空気の流れと歌の聞こえる方向に向かっていく。

近づくにつれて、乳脂のこげた匂いが広がってきた。


「また食べてる」


案の定、匂いの元は台所からだった。

何か焼けている音がする。

歌も同じ場所からのようだ。

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801.5

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極々弱くしたカンテラの光が目に入る。

窓の外はまだ白みもしていない。


あの後結局、衝動に流されて見られてしまった。

溝は埋まったかもしれないが、あんな姿を見られたのは正直言って…



考えても収まらないので軽く水を被ってくることにする。

起こさないように静かに部屋を出てドアを閉めたときだった。


「夜中はお楽しみでしたね」


心臓にものすごく悪い、とんでもないセリフが飛んできた。

本当に嫌なタイミングで。


「ユイ…いつからそこに居た」

「フェイトが戻ってきてすこしたった後かしら?そこからずーっと」


ということは、まさかとは思うが。

嫌な予感がする。


「………聞いたのか?全部」

「ばっちり☆」

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801.4

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暫くその場に立っていた。

部屋に微かに苦しげで泣きそうな吐息。


ああ、こいつは感情を正確に表現できないんだった。

狭い世界で過ごしているから無くなる事には敏感だ。


ラウドの世界の中心は自分なのだ。


「気がつかないとでも思ったか?」


ぎゅっと力を入れてつぶった目じりににじんだ涙を拭いてやった。


と、突然拒むように腕を突き出してきた。

しかし、それほど衝撃はない。

ラウド本人も何をしたのかわからず混乱しているようで、目を見開いて固まっている。

ただ、無意識なのか自分の服をしっかりと握り締めて離さない。




寂しくて、居なくなるのが怖くて。



そんな声がしたような気がする。

気がつけば肩を掴んで、押し倒していた。

必然的に見下ろす形になる。


「俺はお前の傍から離れないし、お前を置いていかない」


だから心配するな。と、頭を抱きかかえるようにして撫でながら言った。

ゆっくりと服を掴んでいた手の力が抜けていく。


「…ほんと、に?」


泣きそうなかすれた声で問いかけてくる。


「ああ、最期まで傍に居る」








落ち着くまで暫く肩や背中を撫でていた。

かなり長い時間そうしていたような気がする。

いつの間にか、腰に腕をまわされて離さないように抱きつかれていた。


その手を、体温を妙に意識する。

気づかれないように押さえてはいるが、正直耐えられる自信は無かった。


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823.3

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「反対、制御がきかないに一票」

「…そこまで話がわからないやつではないと思うが」


飛び込むまでは決まったが、ここにきてからひと悶着が起こる。

何を隠そうラウドの扱い。

忍び込むまでの時間稼ぎに暴れてもらおうかと思ったが、どうもリュートの事しか聞かないフシもある。


「騒ぎを屋敷の敷地内で収められるなら戦力だけど…暴走したら救出どころの話じゃなくなります」

「暴走する前に助け出せばいいだけの話だろ、後はリュートに任せれば収まる」


お互い一歩も譲らず。

万が一のこともあるが、位置を掴んでいる分ステルスで姿を消せるこちらが有利でもある。

そんな二人に割って入ったのは…


「本人に聞けば一番いいであろう?話が解らぬ相手でもあるまい」


パンドラだ、思ったより分析していたらしい。


「今までの行動から考えて、ラウドが言うことを聞くのはリュートしかいないと思ったのだが、最近変わったの」

「変わったかしら?荒れてたけどそれが落ち着いたくらいにしか見えないんだけど」

「そういえばこの前の満月以降から比較的おとなしいな」

「そのもっと前からだ、攻撃の仕方が変わってきた辺りからかの?」


攻撃の仕方…ものすごく思い当たる。たしかに教えた。


「気にかけてる事が伝わったのではないか?」

「いや…同じ匂いを嗅ぎ取ったんだろ」

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799.1

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手が届かない。

いるのがわかっているのに…!

何もできない自分が無力だ……っ





自分の叫んだ声で目を覚ます。

ひどい悪夢だった。

自分の大切なものが無くなる感覚。


リュートがいなくなる。


考えるのを避けていた事をふいに思い出す。

息が苦しい。

頭ががんがんと痛い。


なんでこんなに苦しいのかそれすらも解らない。

こんなに苦しいのに…コンナニ…



誰にも届くわけが無いのに手を伸ばした……

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772

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「反応はいいけど、受身だな。反撃型なのか」


その気はないと思っていた。

しかし、さんざん攻撃を受け流した相手の言葉だ、そういう戦い方が染み付いたのだろう。


「勢いはいいから、そのまま一瞬で近づいて一撃が出せればなぁ…こんな風に」


言い終わらないうちに一瞬で間合いを詰められ、軽くわき腹に拳を当てられる。


「今のは寸止めしたから何も無いが、良くて気絶、悪くて内臓にダメージ与えて吹っ飛ばせる」


これが実戦なら命は無いということか。

つくづく細かいところを的確に突いてくる。


「あともう一つ、斬るだけじゃなくて突くのも覚えろ」

「突くのは今までもやっている」

「あー…気づいてないと思うが、うまく飛び込んできても斬りつけてくるから避けるスキが出てくるんだ」


言われてみれば、軽く動いて確認すると殆どが斬る動きだった。

突く動きがまったくと言っていいほど無かった。

そんなところまで見ていたのか…

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943.4

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鳴り止まない拍手とともに、どこからともなくコインが投げ込まれる。

予想しないわけではなかったので、スフィアを手招きしてすこしスカートを貸してもらい集めてもらう。


「お嬢ちゃんこっちも」

「はーい」


ぱたぱたと愛らしく集めて回るスフィア。

見物客へお礼も忘れてはいない。

ふと思ったことはひとまず頭の片隅に追いやった。


「枚数をきちんと数えてから、半分に分けてくれないか?」

「うん、やってみる」


楽器を片付けながら様子を見守る。

すこし多いようで、ユイに手伝ってもらいながらも何とか数えきったようだ。



「というわけで先に戻るから、あの二人に渡しておいてくれ」

「ちょいとお兄さん、なんで私に頼むかしら」

「…あまり顔を覚えられたくないんだよ、あと受け取りを断られても困るしな」


断る時に居なければ受け取らざるおえないからな。

今までも何回かやっている。

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385

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なんてコイツは無防備なんだと時々思う。


「ぐー…Zzz」


人を抱きこんで、夢の中か。

危機感のないやつめ。

今の噂はもっぱら各地で頻発している殺人事件なのにな。


この前の二人組はまだ逃がしたままだ。

隠れ家のあるこの街で、待ち受けてやりあうつもりでいる。

仕返しをしてやらないと腹の虫が収まらない。

…コイツに危害が及ぶのも忍びないしな。


直接、肌からの温もりが伝わってくる。

その温もりに引きずられるように目を閉じた。


ああ…寝ても醒めても悪夢だ…

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555

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予想外の頼まれごと。

それは…



「…子供ってどうやって扱えばいい?」


お兄さん、ぶっちゃけ慣れです。実学です。

まぁ、今までの調べでリュートは普通の育ち方してないので知らないのも当然か。


「何を考えているのかさっぱり解らん…」

「あのくらいの子供なら、興味があると何でもついて行っちゃうから目は離さないほうがいいわよ」

「むぅ…」


よっぽど慣れてないのか、ストレスになっているようだ。

…クーはストレスにならないのね。


「あとは、怪我しない程度に見守るのとマナーを教えるってくらいかしら」

「…めんどくさいな」

「あまり怒らないのもコツね。根気が必要よ~」


いい隠れ蓑ができてよかったじゃない、と囁くと苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ま、夜に出かけるときはあの子の面倒くらい見てあげてもいいわよ」


そのつもりで質問してきたんでしょうがと少々意地悪な笑みで返してみた。

リュートがパンドラのことを子供と勘違いするのも無理はナイ。

こっちも大義名分ができて、常時張りつけるなと算段をめぐらせていた。

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