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冗談じゃないというのはまさにこの事か。
警備の場所柄、娼館の主たちとは顔見知り。
そのため、よーく上出来のコを教えてもらっていた。
ひいきの旦那にいたっては「ちいーっと練習台になってくれ」と裏で新人の相手をさせてもらったりしたわけで。
「まさかアルにその気があるとは」
「むぐっ…言っとくけど俺はリュートとしか相手してないからな!」
非常に痛い弱みをエルに知られてしまったのが痛恨の一撃。
この腹黒は事あるごとにちらつかせるのでうかうかしてられない。
「まったく、世話焼きが」
「うるせー、仕事で紹介してやったんだ仕事で」
出会いは数年前の夜間警備の際だった。
娼館街の夜間警備はかなり厳しい。
トラブルの多い場所柄というのもあるが、モグリの取り締まりも兼ねている。
リュートもそんなモグリだった。
「俺ら軍の制服見たら、普通のモグリは逃げるんだよな」
しかし、リュートは逃げもせず逆に近寄って、誘ってきたのだ。
周りから見ても、明らかに警備中の軍人に向かって。
「大胆というより…世間知らずだなアレは」
「軍を知らないぐらい世間知らずか?」
「そ。そこいらの箱入り娘よりひどかったぜ」
自分達が軍だと言っても、どこ吹く風。
ムキになって、その場で小一時間イチから教えてやったというか…説教してやったというか。
そんでもって、その場の勢いで旦那に紹介した経緯がある。
「まったく…お人好しが」
「で、後日旦那から感想が来てな」
洒落にならん、と一言。
「どこかで飼われていたのが逃げ出すか売りに出ないと、こんなヤツは出てこないんだと」
「裏の話か」
「まあな。でも売られてきた気配もないし、逃げてきたならそもそも娼館街に寄りつかねぇな」
よく店から逃げたとかで借り出されるが、大概教会に逃げるか男連れで逃げるかどちらかだ。
旦那もプロなので、そこらへんは俺より詳しい。
そのプロがうなっていた。
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昔からアルは運がよかった。
運が良すぎたためトラブルによく合うのだが、それすら運で乗り切るとんでもないやつだ。
どういうわけか、今回も巻き込まれてただ一人無傷で助かったといっても過言ではないらしい。
「お前、こんなの追っかけていたのか」
「まあな、余りにも範囲が広すぎて人手が足りないんだ」
一応部下は5人ほどいるのだが、各地で聞き込みをさせているので暫く帰ってこない。
数日に一度情報が届くが、これと言ってめぼしい情報は出てきていない。
ただ、人相図を送ったのでもう少ししたら重要な情報が入るかもしれない。
「国内全体で1500ちょい…これ本当に一人で出来るもんか?」
「精査しなければならないが、同じ手口が続くと同一犯だと思わざるをえない」
「で、なんで俺が手伝わなきゃいけないんだ?別に誰でもいいだろ」
「これを見たらそんなことも言えないと思うが」
部下に送ったものと同じ書類をアルに渡す。
案の定、絶句している。
「聞き込みなんぞは支部に頼めば何とでもなる。別の理由だよ、アル」
別の理由…一度でも交わしたら口封じとして殺されるため、相手より先に確保しなければならない。
そして何より、アルしか詳しいことを聞きだせる者がいないのだ。
「ぐ…」
「断われるわけがないよな、バレたわけだし」
「リュートの事はともかく…実家には言うなよ」
「それは今後の働き次第だよ」
なにより、重大な秘密を握ってしまったのが堪えたらしい。
アルは昔から悪さばかりしていて、よく叱られていたからな。
叔父さんは怒ると怖いから、いい薬だ。
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最近何か忘れていた気がしなくもない。
その「忘れていたモノ」を思い出させたのは…
「何事。朝からエルが来るなんぞ」
「仕事でね、ここでは話し辛いから呼び出そうと思ったんだが」
暗に「寝坊してすっぽかされる」と言われている気がしなくも無い。
だからコイツは嫌いなんだとぼやきたくなる。
従兄弟じゃなければ絶対付き合いたくないがな。
「今追っている事案で、なぜかお前が上がってきていてな」
「断ったらしょっ引くのか」
「当然」
思い当たるフシがまったく無いが、配置先の担当場所がらみか。
そういえば、ひいきの店の旦那も暴漢に襲われたとか言って、腕をつっていた。
未だに犯人が捕まらないのと関係があるのだろう。
「はいはい、解りましたよ」
「それと上に頼んで、暫らくお前を借りることにしたからな」
「ちょっとまてガズエル!!!!!」
いくらなんでも話が出来すぎじゃないかと疑う。
いや、コイツの事だから前々から根回ししまくっている可能性の方が高い。
「喜べ、少し給料上がるぞ」
「うぐぐぐ」
何かうまく丸め込まれた気がする…っ