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本線 401-500 |
耳が痛いほど静まり返っている。
明け方まであと2時間ほどだろう。
「明けない夜は知らないだろ」
やけに饒舌な自分がいる。
「どこまでもどこまでも堕ちるんだ、そしてそれが正常だと思い込む」
気分がいい、これからが楽しみな所為か。
「気がついたときにはもう這い上がれないくらい、深淵で、闇の中」
「狂人め…!」
「その狂気にあてられた気分はどう?」
もう既に相手は自分の手の内。
どうもここでの権力者らしい。
まさか最期にこうなるとは思ってもいなかっただろう。
「もっと狂気に堕ちてみるか?」
わざとゆっくり、儀式めいた動作で近づく。
相手の顔がどんどん恐怖に変わっていくのがおもしろい。
既に空いている穴に手を突っ込み、赤茶色いカタマリを取り出す。
「行儀悪いけど、このままでいただくよ」
待ちに待った瞬間。
口を付けると水分の多い果物のように、ぼたぼたと手の隙間からこぼれる。
口の周りや服が汚れるが一向に構わない。
「ん…すこし脂があるから焼くといいかな」
くどくは無いが舌に脂の感覚がのる、悪くは無い。
そんなことを思い、呟きつつ相手を見やる。
蒼白になり信じられないという顔をしている。
「くくっ、善良なあなた方にはわからないだろうねぇ…真っ暗闇の存在なんて」
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本線 201-300 |
「少々お邪魔しますよっと」
自分の胸くらいしかない少女がぱたぱたと動き回る。
ころころと変わる表情。
今までに見たことが無い部類の人。
「……」
不思議な人。
隠れ家に入って「暗いっ!」と言ったきりずっと掃除している。
ここは昔、水牢だとリュートが言ってた。
明るくなるわけがないのに。
「あー、カンテラかランプ…後でいいや」
「……」
「ん?何か聞きたいことある?」
じっと目で追っていたのに気がついたらしい。
声を掛けられた。
「…なんで掃除してるの?」
「しばらくココにいるんだったら、少しでもすごしやすい方がいいじゃない」
今度は、何処かからか毛布を何枚か持ってきて寝床を作り出した。
二人分。
「……なんで?」
「リュートが治るまであなたが体調管理をしっかりしなくてどーすんのよ」
「???」
「今のうち、休息を取るのも仕事よ」
言っている意味がいまいちわからない。
でも慣れないことが多くて、疲れている。
「ほんと、久しぶりに横になって寝れるわ~」
ひっぱられて簡素な寝床に座らされる。
ユイも片方の寝床に寝そべり、あくびをしながら伸びをする。
「私が疲れてるんだから、あなたはそれ以上に疲れているはずよ。じゃおやすみ」
本当に不思議な人。
疲れていることまで見抜かれた。
ほんと不思議な人…
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本線 501-600 |
頭が痛い。
呼吸ができない。
キモチワルイ…
苦しくて、苦しくて。
「ぐうっ……」
「少し、慣れるまでガマンしてくれないか?」
嫌いだ、リュートに「カキカエ」される時は。
起きると、体にひびが入ったように苦しい。
体と心がばらばらになったみたいで…
「う…ぐぁっ…」
苦しくて何かにすがりつく。
こうでもしないと壊れそうで…
「いてて、ツメ立てるな」
聞こえる声すら感覚が狂う引き金になって。
必死に「何か」に抵抗する。
頭の中にある違和感。
その違和感を受け入れられなくて。
「りゅ…と、くるし…っ…」
自分が何を言ったかすらわからない。
ひどい違和感。
耐えられない。
そう思うと、すとんと落ちる感覚。
苦しさが消えていく…このまま落ちれば…
「逃げるな、ラウド」
縛る声。
「受け入れろ」
「うぁぐっ…」
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あちこちから響く断末魔の声。
「…知っているものすべて皆殺し。ね…ひどい師匠だな」
閉鎖されている建物に逃げ場はない。
ましてや深夜。
生き残るものがいたら、それは最初から逃げられるように不視の術をかけられている。
「ここに入ったら処刑されるだけだから、その時間が早まったと思えばいいさ」
牢の鍵を一つ一つ開けていく。
看守はとっくに息絶えているし。
開けても構いはしない、なぜなら…
「あれ、もう居住館終わったのか。早いな」
音も無く牢の入り口に立つ小柄な人影。
一時的な狂人化の術が切れ掛かっているのか、焦点の合いきらない目だ。
あと一仕事してもらうには掛け直すしかないだろう。
「おいで、ラウド」
ふらふらと近寄ってきた相手を抱き寄せる。
安心したのか、腕の中で目を瞑りふっ、と力を抜いた。
汚れるのも構わず背中を撫でてやる。
いい子だ、自分の言うことを聞いていればいい。
「舞え、舞い狂え」
一つ強く抱きしめ、耳元で囁く。
ぎくりと硬直する体。
取り落とした得物を握らせ、軽く背中を押した。