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347.6

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荷物をひっくり返し、まじない用の薬を取り出す。

効くか効かないかという薄さの睡眠薬と幻覚剤である。


「う…」


その小瓶を危うく取り落としそうになる。


「ちょっとダメージが大きいんじゃないの?…動かないで」

「何を…」


頭のケガが響く。

そこにユイが触れるか触れないかの位置に手をかざすと、痛みがすっと無くなった。


「ほい、押しても触っても大丈夫」

「!?」

「骨以外は治った、今回は特別ね」


触ってみても痛くは無い、ゆがんだ視界も戻っている。

薬の量を調節しなければならないのでありがたい。



「ラウド、飲めるか?」


起こして薬を飲ませようとするが、苦しげな表情で唸っていて無理と判断する。

しかたなしに、少し流し込みやすいように水に溶かし、舌を噛まれない様に注意して口移しで飲ませる。

苦く甘い奇妙な味が口に広がる。


「んく……げほっ」

「ふう、飲み込んだか」


うまく飲んでくれたようだ、後は薬が効くのを待つだけだ。

幻覚剤が効いてくると、現実と切り離される状態になるので少しは楽になるはず。

苦しんでいる原因は、急にいじられたために起こる体と心の不一致だろう。

こいつの事だ、もしかしたら中途半端に意識同士が混ざり合った可能性が高い。


「…応急処置しかできないな」



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997

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一歩歩くたび、びしゃりという音がする。


「…ここまでなったか」


一面の赤


「うん、もうそろそろ」

「そうか、近いのか…」


赤い空間の主はどこか満ち足りた表情だ。


「でも、リュートはあと一人やったら旅はお終いだって」

「話は聞いているが、何でだ?」

「すこし時間が欲しいって、みんなで過ごす時間が欲しいんだって」


時間か、おそらくスフィアのためだろう。

この先のことを考えると、たしかにスフィアがある程度成長するまで一緒にいたほうがいい。


「…スフィアもそうだけど、クーも自分のこと知らないだろうから」

「ラウド、お前はどうする」

「すこし寝る、気持ちの整理してからリュートに聞きたい事がある」


相手になにかしら揺らぎがある。

前ほどではないが、何か納得してない気配だ。

紺色の目が刃物の光を宿している。



「フェイト」

「ん?なんだ?」


「裁かれるってどういうこと?」



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751

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ここ数日、リュートに呼ばれない。

何かあったのかと、隙を見て浮き上がった。


「えーっと、替えの包帯はどこかな?」


見慣れない小さな子供。

あちらこちらに荷物が散らばっている。


「あ、リュートが持ってるかも。ちょっと待ってて」


子供はぱたぱたと部屋を出て行った。


いつの間にこんな子供を連れていたのだろう。

全然、自分の記憶に無かった。

苦手だ、小さい子供は…すぐに泣くから。


「あったあったー、やっぱりリュートが持ってたの」


包帯を二個ほど持って戻ってきた。

それとなく、言葉を選んで、話しかける。


「…リュートは?」

「んとね、おとなしく寝てた。今日と明日は動けないかもねーって」


二、三日動けない、ということはケガをしたという事か。

それなら呼ばれない理由が納得できる。


「ちょっと聞こえてる?包帯巻くから目つぶって!」


癇癪を起こされそうになって、しぶしぶ目を閉じる。

次に呼ばれたら聞かなければ。



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801.2

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汚れを落として宿に戻っても、冷たい感覚が取れない。

寝台の端に力無くへたりと座る。


「顔色わるいぞ、何かあったか?」


窓から入るのを手助けしてもらったフェイトに声を掛けられる。

答える気力もなく、首を横に振る。

相手は何か感じ取ったのか、無言で窓から出て行った。


「………っ!」


今までに数回ほど衝突したことはあったが、「逃げたい」などと思うことはなかった。

自分のセカイはリュートが中心だから。

でも、今度は違う。


離れたい。


あれだけ傍にいたかったのに、今は離れたい。

距離が、欲しい。

ただ、離れたい。



ガタンと窓の開く音がした。


「ったく…少しは考えろ」

「先が残り少ないヤツに言って何になる」

「誰が後先の事と言った」


びくりと声のする方向を見る。

丁度窓からリュートが入って来る所だった。

ぐっと胸が締め付けられる。

離れたいのに体が思うように動かない。


「はぁ…分かっているよ」


窓に向かってため息をついている。

気づかれたくなくて足元に目を向けた。

気づかないで欲しい、お願いだから、気がつかないで。



「気がつかないとでも思ったか?」


目じりに何か触れる。


触るな!!



突き飛ばそうとするも、寸での所でブレーキがかかる。

結局ポン、と軽く押し返す形になる。


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943.2

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しばらくぶりに本気で歌った割には上出来かもしれない。


まばらに拍手が聞こえる。

拍手をしていたのは見物客2・3人とスフィアとクー。

いつのまにか居たユイ。

そして…


「いい歌じゃない」


鈴の音がする。

先ほど反対側で舞っていた東方の踊り子だ。

そして突然の誘い。


「即興でお願いできるかしら?」

「構わないが…すこし調律させてくれ」


日に焼けた肌にショートのプラチナブロンドがまぶしい。

ならす様にとんとんとステップを軽く踏むと、足についた鈴が鳴る

くるりと回り準備運動がおわったらしい。


「よろしいかしら?」

「ああ」


リズムをとり、かき鳴らすのは情熱の恋の歌。

ただしアレンジを入れて、若干展開が早くなっている。


「ふふっ、いいじゃない」



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290

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ひどい悪夢だった。

自分のうなされる声で目を覚ますほど。

悪夢の中でされていた行為で、異様に体が熱を帯びている。


「すっげーうなされてたな」

「…、あぁ」


覆いかぶさるように相手が顔を覗き込んでくる。

夢の中で動けなかったのはコイツが上に乗って寝ていた所為らしい。


「何の夢見てたんだ?」

「余計な詮索をするな…うなされたんだから悪い夢だ」

「ふーん、うわごとで『いやだ』って言ってたからな」


それだけうなされていたのか。

…やはり『あの数ヶ月』の記憶は強烈なのか、まだ思い出すと夢に出る……


「よっぽどイヤな夢なんだな」


答えを言いたくなくて、口付けで返す。

早く気を紛らわせたくて、腕を回して抱きつく。


これも悪夢から繋がっているというのに。



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672

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「食を調べるのも任務である。とは言ったものよねぇ」

「一口目は勇気が必要な物もあるがな」


たまたま夕食はパンドラと二人で屋台となった。

調べ物と報告があったので、リュートたち三人を置いて先行していた。

フェイトは見た目より小食なのであまり外食しないので、こういうときは二人だ。


「植物系は分解できないものあったりすると後がタイヘンなのよねぇ」

「月唯はほぼ分解できるから関係ないであろう」

「いやだって二人で感想言いながら食べた方がおいしいでしょ~」


体質的な不食のものもあるため、気をつけながらバランスよく選んでいく。

今日は魚を揚げたものを野菜と一緒に煮込んだものになった。

いただきます、と礼儀よく挨拶をしていただく。


「見た目がトマトなのに味がニンジンって」

「土臭くなくておいしいではないか、これは緑色のビーツか?」

「ほんとだ、キウイかと思った」

「うむ、ちょっと酸味が欲しい味だな」

「甘酢仕立てが恋しい味だねぇ、ほんと」


まぁ合わない事はないそこそこの味だった。

なぜか知らないけど酸っぱい食べ物に会わないため、ちょっと酸味が恋しい。


「果物もすっぱいの無いよねぇ」

「うむ見かけないの、鼻につーんとくる辛甘い果物にはさすがにびっくりしたが」

「リコリスみたいに甘苦いならガマンできるんだけど…さすがに辛甘いのは」


デザートは二人ともちょっとほろ苦いジュース。

あまりにも味が似ていたので勝手に「完熟ゴーヤジュース」と呼んでいる。

実際の実はスイカの仲間のようだったが…


「なんだ、こんなところにいたのか」

「あ、リュート。今到着?」

「ああ、遅いから食事摂ってから宿に向かおうと思っていた所だ」


人ごみでも目立つ髪色はやはり目印になるようだ。

到着したばかりの一行にあっさり見つかった。




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130

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正気に戻ると、どっと疲労が襲ってきた。

一歩踏み出そうとして、足元が縺れぐらりと傾く。


「っと危ない、疲れたか?」


転ぶ前に後ろから支えられる。

正直、指一本動かすにもしんどい。


「もう一仕事あるから、眠るのは後でにしてくれないか」

「ま…だ……?」


呼吸を整え、得物を握りなおす。

支えていた手が離れ、軽く肩を叩いて一つの小部屋を指し示す。


「あそこに一人隠れている」


促される間も無く。

示された場所へ向かった。


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801.1

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いつものように。

目の前がはっきりしてくると、とっくにこと切れた死体。

何も感情が動くことは無い。


でも違和感。


いつもいるはずのリュートがいない。

こういうときは必ず傍にいるはずなのに。


廊下に出て気配を探す。

微かな風の流れを感じてたどっていく。



暗闇の中、床に座り込んでいる見知った背中を見つける。

近づいて呼ぼうとしても、声が出なかった。


異様な雰囲気。血の臭い。


「リュ…ト?」


緊張してかすれた声で呼ぶと、ゆっくりと振り向いた。

何かをすする音。

何度も見慣れた行為だ、口の周りが真っ赤になっている。

目を合わせると少し笑ったような気がした。


しかし、自分は冷たい手で心臓を掴まれた感覚に陥りへたり込む。


怖い。


恐怖心がこみ上げてきて体が小刻みに震える。

震えを押さえようとして肩を抱くようにするが止まらない。


頬にぬるりとした感触と鉄の臭い。

俯いた顔を上げられ、合わせた視線には明らかに狂った色を乗せていた。


怖くて怖くて声が出ない。


「寒いのか?」


震える体を抱きしめられ、酷くやさしく背中を撫でられる。

狂気に中てられ動けない自分は、なされるがまま。

首を振って答えるぐらいしかできなかった。



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0.80

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いままでに感じたことの無い大きな波に、口から出たのは悲鳴。

憎まれ口をたたく余裕も無いほど飛ばされる。

一度熱を吐いても収まる気配を見せない。


一つ分かるのは…『虫』を使われた。


堪えようにも容赦なく襲ってくる波に耐えられない。

もし耐えられたとしても、その分酷く荒れて襲い掛かる。

目の前が見えなくなるほど追い詰められる。


しかし、少し慣れた体は熱を吐き出せなかった。

今度はじりじりと焦がされる感覚にすりかわっていく。

波が来ると熱がかき混ぜられ、体をよじるしかなくなる。


吐き出せない熱が苛む炎に変わるのも時間の問題だ。

苛む炎になれば気が遠くなるほど長い甘苦しい時間が始まる。



頭の片隅で、今度の時間は今までで一番長そうだと感じた。



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347.5

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突き飛ばされた際に頭を打ってまだふらつく。

しかし暴走したラウドを放っていくわけにもいかない。


「眠り姫よ…」


眠りの術をかけて、おとなしくさせる。

まだ少し辛いのか完全に眠りきらないがその方が好都合だ。


「ここじゃ怪しまれるから宿に運びましょ」

「…わかった」

「じゃユイ、リュート頼む」

「おっけー」


ユイに促され小柄な肩に腕を回すと、つむじ風が吹きふわっと体が浮く。

そのまま、部屋を確保していた宿に文字通り「飛んで」いった。

…偶には役に立つな…こいつら…




「宿取りに行っている間、何があった」

「…周りから『聖女さま』って呼ばれてた少女に『奇跡』を起こされたのよ、止めたんだけど」


そういえば何か最近うわさで聞いたことがある。

不治の病を治す少女が各地に現れているという。

宿で何度もクーの件で勧められてうんざりしていた所だ。


「どう考えても暗示とか催眠術の類っぽくてうさんくさかったけどね!しっかり術の痕跡見えたし」

「ちっ、何かかけられたのか…」


薄々、話から術をかけられたのは気づいた。

ユイの話で決定的だ、自分が使うものとほぼ同じ術の確率が高い。



「…同類?まさか…まだいたのか」



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347.3

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二人がこっそり宿を抜け出したのを確認して、屋根伝いに追いかける。

足場が無い場所は風を足場にして進む。

魔力の羽を出してもいいのだが、いかんせん色が色なので目立つ。


「うーん、なんかありそう」

「なんだよ」

「ちょっと気になることがね」


月唯がこんなことを言う時は大なり小なり何かある。

何年も一緒に任務をこなして来ると、相手の癖も判ってくる。

直感で何かを感じ取るのは月唯の方が上手なので、それなりの心構えはしておく。


開けた道に出ると一度止まる。

街の外壁と倉庫に囲まれた場所はまったく人気が無い。


「今日は倉庫番でも狙うのかしら?」


さらっと物騒なことを言うなよとつっこみたかったが、視線は二人組から離れない。

本来なら止めるべきだが、これも任務だと割り切って見てるだけなのだ。


「ん?」


異変に気づいたのはどちらだったか。


「フェイト!」


飛び出したのはほぼ同時。

リュートが横に吹き飛ばされ、外壁に叩きつけられる一瞬前だった。


「やっぱり昼間のがまずかったなぁ…」


二人の間に割り込むように飛び込む。

吹き飛ばされたリュートは軽い脳震盪を起こしたようだ。


「なーにやってんのよリュート」

「お前らか…」


月唯が手際よくケガの程度を確認して、向き直る。

その間、自分は暴走したラウドをおびき寄せる役だ。

引き離している間、何か話しているのが聞こえた。


「一大事だったら二択」

「俺のモノにキズつけたら承知しない…!」

「りょーかい♪」


…また悪い癖を。

ワイヤーを使う構えに入ったのを視界の隅に捕らえた。

腕を振るのが見えると同時にバックステップで月唯の反対側に離れる。



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101

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頭に霞がかかって何も考えられない。

ただ目の前にいる人に向かって、ふらりと体重をかけてぶつかる。

急所目掛けて。


コレガタダシイ


まだ人がたくさんいる。

椅子を振り上げてきた人に、後ろから回り込み一閃させる。

飛び掛ってきたものには右側に回りこみ突き立てる。


マダイル、コワサナキャ


視界が赤くなっても気にはならない。

どうせまだ汚れるから…



ああ、まだあの声が耳から離れない。

真綿で首をしめるようなあの声が。



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369

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呼び出されるといつもの顔。

でも今日は様子が違う。

手招きされると膝枕され、仰向けに寝かされた。


「調子はどうだ?」

「…良くない」


正直に答えないと後が怖い。


「うまく体が反応しない」

「そうか」


頭をひと撫でされると、視界を覆われる。


「少し眠れ、起きたら楽になる」


そう言われて、耳元で「なにか」囁かれた。

何かと聞き取れる暇もなく、深い眠りに引きずり込まれた。



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999.2

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突然現れた廃墟。


始まりの場所。


終わりの場所。


出会いの場所

別れの場所


「結局ここが…」


廃墟に足を踏み入れる。

埃っぽい空気。

散らばる白骨。

ここが放置されて、何年も立っていることが伺える。


「人が入った気配がない…?」



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943.1

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荷物の奥から出てきたものは、しばらく触れていないものだった。


「これリュート弾けるの?」


携帯用の弦楽器。

調律すれば、前と変わらぬ音を響かせる。

指もそこそこ動くのでそれなりに弾けるとは思う。


「宿では迷惑だから外に行くか」

「弾いてくれるの?」

「ああ、だから行くぞスフィア、クー」




街の中心にある噴水の縁に座り、準備をする。

噴水の反対側には珍しい東方の踊り子が舞っていて、人だかりができていた。


「とりあえずあちらには負けるが、今日は路銀を集めるためではないからな」


一つかき鳴らし、歌いだす。

情念の歌、送葬歌、郷愁の歌、情熱の恋の歌…

最後に祈り・救いの歌。


散々殺してまわった奴が救いの歌を歌うとは滑稽だな…



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251.5

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はたと目が覚めた。

もともと任務中の眠りは浅いので、すぐ頭ははっきりとしてくる。


「…物音?」


なにか木の軋む音がする。

ここは石造りの地下室だ、軋む音は家具からの音しかない。


「なにやってんの…こんな時間に」


ラウドが起きると悪いので、明るいディスプレイを隠しながらボイスレコーダーを起動させる。

音が漏れないようにイヤホンも必須だ。

ワイヤレス集音マイクをそーっと上部の壁の隙間に置いて。


「まったく…」


すこしボリュームを上げると何を話しているか聞こえてきた。


『オッサン、ケ…に……なに……る』

『ひ……ぶりだ……具合は…』


すこし雑音が多いが、ノイズキャンセラでも通せばきれいになるだろう。

報告書を書くために録音しておかねば。


しかしなんか様子が変だ。


「はて…?」


まだ会話が続いているが、どうもリュートの口ぶりから何か嫌がっている様子。

でも片足を骨折している所為なのか、知り合いの所為なのか暴れる気配がない。

嫌がることがあればすぐ攻撃する性格かと思っていたのだが…

暫く様子を伺うことにしてみる。


『へぇ……なに…って…か?』

『うるさい!』


なんか…余裕の無い返事になってる気がするのは気のせいでしょうか。


それにしても似たようなものを何かで…どこかで…

たとえば雑誌とか…マンガとか…小説とか…


「あ。」


パズルが一気に組みあがる感覚。

それと共に今、隣の部屋で何が起こっているか把握してしまった。




「…あわわわわ」


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787

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半分以上紅くなった自分のセカイ。

普段ここは自分しか入ってこれない場所。


そんな場所に足音が聞こえる。


「また来たの?フェイト」

「ああ」


敵意識があると入ることすらできないこの空間。

そこをフェイトはすんなり入ってくる。

リュートですら入ってこれないのに…


「…半分以上紅くなった」

「前よりペースが落ちてるけど範囲が広がっているな」


その所為か知らないけれど、唯一の話し相手。


「リュート、最近自分のこと見てるのかな…」

「どうかしたのか?」

「遠い、リュートが遠い」


一つ不安があった。

自分のセカイにはリュートしかいない。

置いていかれたりしたら一人になってしまう。


「一人はイヤだ…」



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0.999

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周りでざわざわと物音が聞こえる。

床にびっしりと細かい紋様。

樹脂のランプに照らされて人影がゆらめく。


今から一体何が始まる?


自分は扉を背にして部屋の中心にいる。

黒づくめの人が離れた場所に何人も立っているのが皮膚感覚で判る。



ざわめきが止み、代わりに低い単調な呟きになる。

始まった。


樹脂の匂い、単調なリズム。

意識がゆっくりと眠りに入る感覚に囚われる。

完全に眠ることは無い。

体から力が抜けて、その場に崩れる…


いつのまにか目の前に人が立ったのかも定かではない。


起こされ、座る体勢に直される。


言われるがままに目の前の振り子を目で追う。



すぐに意識が暗転して暗闇に落とされた。



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800

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疲れている、わけではない。

何か欠けていると言ったほうが良さそうだ。


「これでもないのか…」


行きずりの男をひっかけ、後の処理が楽なように橋の袂に連れ込んで。


「しかも…脂っこくてマズイ」


せっかくのメインディッシュの喜びも半減だ。

しかも肝腎なものは脂を齧っているようだった。


汚れを落とすため川の水で洗い流す。

冷たい水が、興奮して熱を持った体に染みる。


何かが足りなくて、空洞が少しずつ広がっていく。

壊れているココロでも空洞ができるのか、と客観的に見ていたりもする。

何が足りないのだろうか?



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