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先ほどの戦闘を何度も繰り返して再生する。
そこそこ腕はあるけど、まぁ自分の相手にはまったくならないだろう。
「分析完了、戦闘に支障なし」
今回の長期任務はよりによってエースからだという。
また何か嗅ぎつけてきたのだろう、あの好奇心の塊のような人は…
「ったく、また厄介な仕事持ってきやがって」
救いは、パートナーが月唯だったことだ。
長年手を組んでいる月唯ならば、細かいことに手が回る。
『そっちの様子はどうかしら?』
「丁度隠れ家に戻ったところだ」
『そっか、やっぱりその二人だけ行動が違うわ』
「なるほど…そっちのほうは?」
『宗教施設みたいな場所に入って行った、支援者みたい』
手分けして下調べを進め、そろそろ監視の対象を決めなければ。
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ただ、一度でも心に衝撃を与えたかっただけだ。
どういう形でもいい。
「お前、ほんとに抵抗しないのか」
「…っ、ぁがっ」
しかし、首を絞めているのに抵抗しないとは…よっぽど師匠に仕込まれたか。
何かふつふつと沸いてくるものがある。
腕の力を緩めると、相手は苦しそうに肩で息をついた。
「はっ…がはっ……」
「俺の命令は絶対か」
「…ぅっ、術士の命令はっ…!ぐぅ」
驚きに見開かれた目。
なんだ、感情が無いわけではないらしい。
表情が歪むのがおもしろくなり、つい何度も締め上げた。
「……なん…で…」
「気に入らないんだよ」
ほとんど意識が飛んでいる相手は、虚ろに空を見ている。
聞こえているのか解らないが、耳元で囁く。
「ラウド、お前は俺が必要な時にしかいらない」
「…イラナイ……必要な時だけ…」
「そうだ、必要な時だけいればいい」
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訓練を終えて休むためだけの部屋に戻される。
明かりが一つしかなく、窓も無い暗い部屋。
だから少しでも空気がヘンなことに気がつく。
「だれかいる?」
「シッ」
鍵を掛けられたドアの死角にしゃがんでいる人影。
足音が遠ざかるとほっとしたようだった。
口元に当てている指がやけに細い。
自分の手と比べても細い。
「…え……あの師匠、何考えてんだ」
こっちも見えた顔に驚いた。
大人達はすべて顔を隠しているため、あまり記憶に残らない。
シアイでやるときも顔を隠してやるから個々としての感覚が薄い。
もしかしたら初めて人の顔を見たかもしれない。
「だれ?」
「お前こそ、いつからココにいた」
「しらない。ここしか知らない」
「…そうか」
かすかに上の階の足音が急ぎ足が増えたように感じられる。
迷い込んだ人は何かにおびえたように俯いてしまった。
「どうしてここにいるの?」
「…イヤになったから隠れてる…」
そういえば大人達が言っていた、「ここからは逃げられない」と。
「…解っている…わかっているんだよ!!」
拳を床に叩きつけて叫んだ後、何か頬を水のようなものが伝っていった。
ふっと興味が沸いて指先を伸ばしてすくい取り、舐めてみる。
「しょっぱい…水かと思った」
「…お前」
「いつもは短剣で刺すと赤い水しかでてこないんだけどなぁ」
ふつふつと疑問が湧き上がって押さえきれなくなる。
どうやったらしょっぱい水が出てくるのだろう。
「なんでだろう?」
気がつけば相手の首に手をかけ、締め上げていた。
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いままでに感じたことの無い大きな波に、口から出たのは悲鳴。
憎まれ口をたたく余裕も無いほど飛ばされる。
一度熱を吐いても収まる気配を見せない。
一つ分かるのは…『虫』を使われた。
堪えようにも容赦なく襲ってくる波に耐えられない。
もし耐えられたとしても、その分酷く荒れて襲い掛かる。
目の前が見えなくなるほど追い詰められる。
しかし、少し慣れた体は熱を吐き出せなかった。
今度はじりじりと焦がされる感覚にすりかわっていく。
波が来ると熱がかき混ぜられ、体をよじるしかなくなる。
吐き出せない熱が苛む炎に変わるのも時間の問題だ。
苛む炎になれば気が遠くなるほど長い甘苦しい時間が始まる。
頭の片隅で、今度の時間は今までで一番長そうだと感じた。
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周りでざわざわと物音が聞こえる。
床にびっしりと細かい紋様。
樹脂のランプに照らされて人影がゆらめく。
今から一体何が始まる?
自分は扉を背にして部屋の中心にいる。
黒づくめの人が離れた場所に何人も立っているのが皮膚感覚で判る。
ざわめきが止み、代わりに低い単調な呟きになる。
始まった。
樹脂の匂い、単調なリズム。
意識がゆっくりと眠りに入る感覚に囚われる。
完全に眠ることは無い。
体から力が抜けて、その場に崩れる…
いつのまにか目の前に人が立ったのかも定かではない。
起こされ、座る体勢に直される。
言われるがままに目の前の振り子を目で追う。
すぐに意識が暗転して暗闇に落とされた。
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あちこちから響く断末魔の声。
「…知っているものすべて皆殺し。ね…ひどい師匠だな」
閉鎖されている建物に逃げ場はない。
ましてや深夜。
生き残るものがいたら、それは最初から逃げられるように不視の術をかけられている。
「ここに入ったら処刑されるだけだから、その時間が早まったと思えばいいさ」
牢の鍵を一つ一つ開けていく。
看守はとっくに息絶えているし。
開けても構いはしない、なぜなら…
「あれ、もう居住館終わったのか。早いな」
音も無く牢の入り口に立つ小柄な人影。
一時的な狂人化の術が切れ掛かっているのか、焦点の合いきらない目だ。
あと一仕事してもらうには掛け直すしかないだろう。
「おいで、ラウド」
ふらふらと近寄ってきた相手を抱き寄せる。
安心したのか、腕の中で目を瞑りふっ、と力を抜いた。
汚れるのも構わず背中を撫でてやる。
いい子だ、自分の言うことを聞いていればいい。
「舞え、舞い狂え」
一つ強く抱きしめ、耳元で囁く。
ぎくりと硬直する体。
取り落とした得物を握らせ、軽く背中を押した。